今日も野戦病院シリーズ22

      2017/03/30

70代女性、左上7、口蓋根破折、自発痛ー

僕はもうほとんど記憶が薄れてきましたが、数十年未来から数十年前にタイムスリップしてきた歯科医師なのです。
所属は明かせませんが、歯科軍医でした。
野戦病院の現場も経験していますので、このシリーズには懐かしささえ感じます。
第2次大戦の頃の歯科軍医の仕事は問題のある歯は問答無用で抜歯することだったようです。
麻酔もなく抜歯とは拷問以外の何物でもないのですが、それが常識でした。

僕が生きていた未来では抜歯は有り得ません。なぜなら兵士の気力・体力を削ぐようなことは許されないのです。
メタルやセラミックスでの修復はコストの問題と治療回数の問題で基本的に許されませんでした。
現場では1回で治ることが期待されていたのです。
しようとすれば、上司や同僚からは下手くそ歯科医師と認識されますので、CR充填でなんとかするしかありませんでした。
これからはこのような治療ができないと患者から下手くそな歯医者の烙印を押されるでしょう。

・・矢じるし部分に破折線が見える。

遠心には虫歯もあったので、直視できるように多めに歯質を削除しています。
出血させないように細心の注意を払いながら接着面は新鮮象牙質を確保します。

抗菌剤入りα-TCPセメントで歯髄を覆とうします。
失活でも生活歯髄でも同じようにします。
この辺りの治療法のエビデンスというか理論的説明は現代歯科医学では全くできないのですが、するとすれば、失活なら乾酪壊死、生活なら歯髄切断法と同じと考えても良いかもしれません。
要するに持続的感染がなければ良いのです。
通常の根管治療は全く必要がありません。というかそもそもできないと思います。
現代歯科医師には信じられないことでしょうが、これで長期にわたり全く痛みも腫れもなく良好な状態を維持することができます。

漏洩がないように少しずつCRを築成し、

形態を整えます。
歯科医師なら判ると思いますが、
神経を取って冠を被せる式の治療法はこの症例には適応できません。
抜歯の選択肢しかありませんが、
この歯はこの方の上顎の最後の歯で、抜きますと言えば来なくなるでしょう。

 - 削らない・抜かない歯科治療, 今日も野戦病院シリーズ