民主党経済成長戦略の「非現実」加速度的に接近する危機を意識せよ

      2017/02/26

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2567

民主党は2009年も押し迫った12月30日の臨時閣議で、新たな経済成長戦略の骨格となる基本方針を決定した。2020年までに環境・健康・観光の3分野で100兆円の需要創出、400万人の新規雇用創出──という、誠に、頼もしい目標を掲げた。

経済成長率については「年平均3%(名目)」を目指すとしている。その程度の成長を続ければ、これまでと同じような生活シナリオを描くことができ、年金などの社会保障システムも存続可能である──ということなのだろう。もちろん、豊かで安定した暮らしが続くことには何の異存もない。可能であるならば、是非とも、民主党には年3%の成長目標を実現してもらいたい。

しかし、残念ながら、これからの日本が年3%の成長を続けることは、極めて非現実的である。その悲しい事実を論証してみたい。

原油生産減退率6.7%の本当の意味

2009年12月11日付の「やっぱり期待外れの『世界エネルギー展望』」の中で、国際エネルギー機関(IEA)のビロル博士の言葉を紹介した。ビロル氏によれば「既存の油田の生産の減退率は6.7%」だという。

「減退率6.7%」と聞いて、「なんだ、石油が危機的状況にあるなどと大騒ぎするほどの数字じゃないな」と思った人も多いのではないだろうか。しかし、実は、「減退率6.7%」はなかなか侮れない数字である。

「既存油田の生産の減退率6.7%」=「10年半後に生産量は半減」〔AFPBB News〕

「減退率6.7%」とは「毎年6.7%ずつ減る」ことで、その値は指数関数的に大きくなっていく。指数関数で現在値から半減(倍増)するまでの時間を求めるには、「70をその減退率(増加率)で割る」という便利な計算式がある。減退率6.7%の場合の半減期は、70÷6.7=10.448。

つまり、「減退率6.7%」とは「既存の油田からの生産量は10年半後には半減する」と同義。この時点で、ようやく、多くの人が事態の深刻さに気付くはずだ。

人間の脳は「指数関数的な振る舞い」をする現象を理解するのが苦手だ。だから、「減退率6.7%」と聞いても、その意味するものを直感的にイメージできない。ましてや、数学に苦手意識を持っている人にとっては、なおさらだろう。

初めはゆっくり、やがて加速度的にやってくる危機

コロラド大学のアルバート・バートレット教授の思考実験も、人間の脳が指数関数を理解することを苦手としていることを分かりやすく示している。その一部を紹介しよう。

分裂を繰り返し、1分ごとに倍増していくバクテリアが存在すると仮定する。バクテリアを午前11時にビンに入れて増殖の様子を観察したところ、1時間後にビンが満杯になった。ここで3つの質問について考えてもらいたい。

Q1 バクテリアがビンの半分まで増殖したのはいつか

Q2 あなたがバクテリアだとしたら、いつの時点でスペースが無くなることに気づくか

Q3 ビンが満杯なる前に、空ビンをさらに3本用意した場合、バクテリアはいつまで増殖を続けられるか。

答えは以下の通り。

A1 午前11時59分(1分で倍増することを思い出そう)

A2 午前11時55分の時点ではビンの97%がカラの状態。この時点で、危機を察知できる人はほぼ皆無だろう。賢明にもこの時点で気付いたとしても、残された時間はわずか5分しかない。

A3 新しい3つのビンは、クラッシュまでの時間を2分間引き延ばすに過ぎない。

指数関数的な数値は、時間が経過するほどに変化率が急激になるのが特徴だ。しかし、この極めて単純な数学的事実を我々の脳は直感的に捉えることができない。学生時代に数学授業で勉強したはずの指数関数曲線も失念してしまっている。

そして、これがエネルギー問題を考える際のポイントとなる。

エネルギー供給がピークを迎えれば、経済成長も限界を迎える

安心して老後を暮らせる社会はいつまで続くのか?〔AFPBB News〕

有限な環境下での指数関数的無限成長を続けることは不可能であり、いつか破綻が訪れる。その時期が「まだまだ先」と油断していると、それは加速度的な速さで近づいてくる。

では、有限の地球で、我々はいつまで指数関数的な成長を享受することができるのか。経済成長とエネルギー消費量に比例関係があることは、過去に多くの論者が指摘している。人類は、エネルギー消費の拡大によって経済成長を実現してきた。

この限界をいち早く指摘したのが、シェル石油の地質学者キング・ハバート博士が1976年に発表した論文だ。

下グラフはハバートが示した、資源と経済成長の関係を表す成長曲線だ。(1)の枯渇性資源(化石燃料、鉱物など)の生産はある時点までは伸びるが、ピークを過ぎると減退に向かう。(2)は川の浄化作用や森林資源などの再生可能資源で、一定ラインまでは増加するが、その後は頭打ちとなる。(3)はマネーやGDPなどの経済成長を示す線で、理論的には、無限に指数関数的に伸びることが可能である――ように思える。

しかし、有限地球における指数関数的無限成長はどこかの段階で矛盾が表面化することになるだろう。石油に代表される枯渇性資源の生産がピークを迎えることで、全世界のエネルギー投入量もピークを迎え、経済成長にも限界が訪れることを、ハバートは警告したのだ。

石油減耗、人口減では経済規模は拡大しない

さて、ここで、民主党の「経済成長戦略」に戻ろう。

成長率が1%なら倍増時間は70年(70÷1)であり、成長率が2%なら35年(70÷2)、3%なら23.3年だ。仮に、今年生まれた赤ちゃんが70歳まで3%の経済成長を享受しようとするならば、経済規模は現在の8倍にならなければならない。中国やインドのような10%近い成長をしている新興国がこのままの成長を70年間続ければ、経済規模は今の1024倍になる計算だ。

地球は有限であり、投入できる資源・エネルギー量も有限である。石油の生産ピークが訪れようとし、少子高齢化で人口は減少傾向にある。この状況下で、現在の8倍にまで経済規模を拡大することが可能とは思えない。つまり、私たちの子や孫の世代が、これまでと同じような経済成長の恩恵に与ることはかなり難しいのだ。

子どもたちが、すくすくと成長し、幸せな人生を送れるような未来図を!〔AFPBB News〕

私たちのおかれた状況と、ビンの中のバクテリアが直面している状況とに本質的な違いはない。脳を持たないバクテリアは、状況を理解せずにクラッシュする運命だ。しかし、高度の知能を持つ人間には、現状を認識し、未来に備えうる可能性がある。できれば、バクテリアと同じ運命を辿りたくはない。

この指数関数的な成長が仕掛けたワナから抜け出すための時間的猶予はそれほど残されてはいない。なにしろ、危機は加速度的に我々に近付いてくるのだ。だからこそ、政治の役割は、聞こえのよい言葉を並べることではない。まず、私たちが直面しようとしている現実に向き合い、実現可能な選択肢の中からより良い未来図を描くことこそ責任政党が取り組むべきことだ。

 - ドクターのつれづれ。, もったいない学会